混声合唱団 麗鳴

東京都府中市で主に活動している混声合唱団

合唱グッズ解説〜ハーモニーディレクター〜

かわばたです。ネタが尽きたので合唱グッズ解説はおしまいのはずでしたが、団員から思いの他好評を頂き(二人ぐらいから)、気を良くしたのでもう一回だけ書きます。今回はハーモニーディレクターについてです。これを語ると学問としての音楽に触れなければならないので大変なので避けていたのですが仕方ありません。貧弱な知識で精一杯頑張って書きます。

ハーモニーディレクターとは、合唱や器楽等のアンサンブル練習*1に特化した電子キーボードの事です。電子キーボードは色んな音色の音を出す事が出来る楽器ですが、ハーモニーディレクターは、

  • メトロノーム機能(色々なテンポで拍を刻んでくれる)
  • ピッチの変更(通常だとA=442Hzだが、この周波数を変更できる)
  • 平均律だけでなく純正律を出す事が出来る

といったことが出来ますので、複数のパートでの演奏時にきちんと和音が作られているかを確認、追求する事が出来るのです。

・・・と、ここまで書いて「用語の解説しないと何書いているか判らないよなー」と自分でも思うので、用語の解説を試みます。が、本当はなんらかの解説書を読んだ方が良いと思います。個人的には芥川也寸志著の「音楽の基礎」はわかりやすいし面白いのでお勧めです。アマチュア合唱に何らかの価値を見出している方なら、この手の本を読んでおくべきだと思います。

音楽の基礎 (岩波新書)

音楽の基礎 (岩波新書)

メトロノーム機能(色々なテンポで拍を刻んでくれる)

これは判りやすいですね。カチカチ・・・という音で早いテンポや遅いテンポで音を刻んでくれます。

ピッチの変更

ピッチとは音の高さの事です。音名でいう「A」ハ長調での階名でいうと「ドレミファソラシド」の「ラ」の事になります。

で、大前提なのですが音というものは物理学的にいうと電波とかと同じ「波」なので、高さによって周波数という数値が決まっています。

一般的に音名Aは442Hzとなっています。この値が増えると音が高くなり、減ると音が低くなります。
Aが442Hz、というのを基準として、他のドレミファソラシドの音も決めているわけです。この基準をちょっと高くしたり低くして、全体的に音の高さを調整する事が出来るのが「ピッチの変更」という機能です。

なお、余談となりますが上述の「音楽の基礎」によると昔のAはもっとピッチが低く、時代が新しくなるにつれてピッチは高くなってきているそうです。
よって古楽などピッチが今より低かった時代の曲を演奏するならば、当時のピッチに合わせた方が良い事になります*2ので、基準の音を出す際にこの機能は便利です。

平均律だけでなく純正律を出す事が出来る

平均律純正律音律というものの種類です。解説するととても大変なので(私が)、かなり端折って説明すると、ドレミファソラシドの「ド」から「レ」、「レ」から「ミ」・・・(以下略)に音が上がる時にどれくらい高くするかを決めるルールが音律だと思ってください。
で、低い「ド」から高い「ド」までの間の事を1オクターブと呼びますが、1オクターブの間を均等に12分割するやり方が平均律です。
1オクターブを12分割すると、以下の通りになります。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
ド♯またはレ♭ レ♯またはミ♭ ファ ファ♯またはソ♭ ソ♯またはラ♭ ラ♯またはシ♭

平均律では、1オクターブの中の12の音は、どこをとっても前後の音の高さの幅は等しくなります。例えば、ドとレ♭の間と、ミとファの間の音の高さの上がり方は、半音上がる、という意味において同じ事になる訳です。

ところが、1オクターブは、厳密には12等分できないのです。どういう事かというと、上の表で一緒にしてある
ド♯

レ♭
とでは、微妙にド♯の方が高いのです*3この音の違いを厳密に考えるのが純正律です。


で、なぜ平均律純正律と種類があるのかというと、それぞれ長所と短所があるからです。

純正律は、きちんと音の違いを考えますので、平均律で作った和音より綺麗な音を表現することが出来ます。
しかし、ハ長調からたとえば変ロ長調に調が変わると、オクターブを構成する音が微妙にずれていくので、その度に微調整が必要になります。ピアノで違う調を演奏する時には、その度に調律をしないといけなくなります。ギターでいうとCメジャーからFメジャーに変わるとき、調弦しないといけなくなります。
転調(コード変更というやつです)という概念の無かった時代の曲を演奏する際には問題無いかもしれませんが、転調が頻繁に行われる現代の音楽を楽器で演奏する際には、純正律ではちょっとやってられません*4。あと、ハーモニーディレクターで実際に音を出してみるとわかりますが、純正律で違う調を無理やり表現するととても気持ち悪い音になります。

一方平均律だと音の高さの幅はどこを取っても均一ですので、オクターブを構成する音はどの調になってもずれませんので転調のある曲を楽器で演奏する時に大変便利です。ていうか現代の曲はほとんど転調を伴いますので、楽器では以上のような事情から平均律で音を出すようになっています。多分、小中高の音楽の授業で触っている(た)楽器の音律は、全て平均律だと思います。
ただし、厳密に考えると正しい音と異なりますので、純正律で作った和音よりきれいにはなりません。


以上、かなり乱暴にまとめると、

名前 特徴 長所 短所
純正律 音の高さを厳密に考える きれいな和音 転調する度調律が必要
平均律 1オクターブを12分割 転調しても調律不要 ややきたない和音

となります。

楽器での演奏では平均律の長所がその短所を補って余りあるため普及していますが、合唱は人の声で演奏します。そして他の楽器に比べると声は微調整がしやすい「楽器」です。なので純正律を追求しやすいのです。麗鳴のマエストロこと中館先生の指導も、純正律を意識して行うことが多いです。


前置きが長くなりましたが、ハーモニーディレクターは純正律での正しい音を出してくれます。きれいな和音を追求する練習の際にとても便利なのです。もちろん各調性での純正律を出してくれます。

さらに、麗鳴で使った事はありませんが、以下のとおり、様々な種類の音律(純正律以外にもピタゴラス音律を初めとして沢山あるみたいです)を表現する事が出来ます。

平均律
純正律(長調)
純正律(短調)
ミーントーン音律
ピタゴラス音律
ヴェルクマイスター第1技法第3番
ヴェルクマイスター第1技法第3番(改)
キルンベルガー第3番
キルンベルガー第3番(改)
ヴァロッティ&ヤング
ヴァロッティ&ヤング(改)

以上、正規の音楽教育を受けている方から見たら大変おかしなところも多々ある気がしますが、とりあえず書いてみました。うう、次回練習での団員からのツッコミがおっかねえ・・・。
なんか難しい話になってしまいました。「こんな事を書いているかわばたさんは常に純正調を意識して合唱活動に取り組んでいるんですね」とかお考えになるかもしれませんが、それは大きな間違いです。頭で考えるのとやるのでは大違いですから・・・。

あと、「純正律は正しい音を追求している」と書きましたが、「じゃあ何をもって正しい音としているのか」というツッコミがあるかと思います。それはすなわち倍音の概念」を説明しないといけなくなり、本来の目的であるハーモニーディレクターの解説から逸脱すると思うので割愛します。

なお、麗鳴で使っているものはヤマハのHD-100という機材です。以前参加した賞金付きのとあるコンクールで入賞した際に頂いた賞金で買いました。とても便利ですが、強いて不満点を挙げるとしたら「音量が小さい」事でしょうか。スピーカーを接続して補強したいところです。

現在販売されているのは新しいモデルである「HD-200」というものとなります。

ヤマハ ハーモニーディレクター HD-200

ヤマハ ハーモニーディレクター HD-200

詳しい機能については説明書のPDFファイルが公開されていますので、こちらをご参照いただければと思います。
http://www.y-m-t.co.jp/manual/index.html

こんどこそ合唱グッズ解説は最終回です。でも「まだこれがあるだろ」とかご指摘いただいたら書くかもしれませんのでその際はコメント等お願いします。

ではー。

*1:ここでは各パートが一緒に曲を演奏する練習の事を指します。麗鳴では「合せ練習」とか言ったりします

*2:プロの方からしたら違うのかもしれません。違ったらごめんなさい

*3:ピタゴラスが一本の弦の長さを調整しながら確認してピタゴラス音階というものを作り、そこから発展して純正律が生まれたそうです。詳しくは上述の本などご参照下さい。

*4:むしろ、平均律が考案された事によって転調を伴う音楽が作られたという事のようです