現代音楽について
前回が完全なフィクションだったので、今回はノンフィクションでお届けします。
一枚の絵がある。それは一見ぐちゃぐちゃな線や点が描かれただけのもの。
美術の素養も何もない人が見たら「ぐちゃぐちゃだ。わけがわからないよ」となる。
それを誰かが解説する。
「この絵は◯◯を表現したものです」
それを聞いて「わかった」と思うかも知れない。しかしそれは解説の内容が理解できただけで、
肝心の絵のことは何も分かっていない、ということになるらしい。
むかしむかし。私はある合唱曲に出会った。仮に「ぐちゃぐちゃ」というタイトルにしておこう。
どこがサビなのか分からないし全部不協和音に聴こえる。歌詞を読んでも意味がさっぱり分からない。
しかし自分はその曲に不思議と惹かれていた。何度も何度も繰り返し聴いてしまう。
「ぐちゃぐちゃだ。わけがわからないよ。でもすごい」
それが音楽の素養も何もない自分が抱いた素朴な感想である。
時は流れ、現代音楽ばかり取り上げるグループに所属していた知人からこんな話を持ち掛けられる。
「今度『ぐちゃぐちゃ』を歌うんですよ。良かったら一度練習に来ませんか?」
これはチャンスだと思った。歌えるということよりも、指揮者がどんな解説をするほうに私の興味はあった。
自分より遥かに多くの事を学び、経験し、プロの音楽家として生きている人が「ぐちゃぐちゃ」について
どのように語るのだろう。そう思うだけで心が躍る。
そして練習日。見学の私だけではなく、団員全員が初見で「ぐちゃぐちゃ」に取りかかった。
団員もみなアマチュアなので「ぐちゃぐちゃ」の壁にことごとくぶつかる。
指揮者はそんな様子には慣れっこなのか、何食わぬ顔で淡々と練習を進めて行く。
そしてある時、
「いや〜、この作曲家はね・・・・」
お、来るか? 解説くるか?
「完全に狂ってるね」
私は「ああ、それでいいのか」とほっとした気分だった。
このコラムの担当者について
「simanb」犬も猫も好き。でも猫の方が好き。断然猫派。
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